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「剱士(けんし)唐鎌松之助村雨之墓」を八王子市内の墓で眩しく対面することが出来、
お参りした。
微かな記事から、ようやくたどり着いた松之助の墓石を前に捜し求めた苦労がいっぺん
に吹き飛び、感慨深く、墓石の前で佇んだ。
墓石にある通り、生涯を北辰一刀流の"剱士"として飾った姿が墓石に滲み出ていた。
良く見ると真田六文銭と思える家紋が際立つ。
墓石は昭和8年(1933)建立されており、右側面の戒名など既に風化し読みにくくなっている。

<当墓地参拝に当たって>
取り上げる事も少ない、松之助の紹介記事でも、同墓石は左入村の個人墓とあるだけで、
その存在を探すことは大変困難なことであり、幻の墓とさえ思った。
しかし、四度目の"左入"の通いの執念が判ってくれたのか、松之助が「此処だよ」と半ば
あきれ顔で手招きしてくれた。

小峰家は左入村の豪農で名主を勤めていた。
自宅の背後は裏山が控え、自分の所有地だけを歩いても、多摩川の釣りに行けたと言われ、小峰家の庭先が多摩川
の一画まで繋がり、左入のお大尽と言われる豊かさを誇る財力の持ち主であった。
父、久次郎は剣をたしなみ、八王子千人町に住む、千人同心増田蔵六より、剣術天然理心流を学び、13年以上に渡り
熱心に稽古に通い、免許皆伝迄取った。その熱心さから久次郎は自宅内に仮道場を設け、稽古に余念がなく、剣に歩む
父の姿の後を追うように、長男範之介及び次男松之助は剣の道に入っていった。
小峰家の範之介及び松之助の両兄弟は養子として離れ、逆に高木家から養子を迎え入れ、継ぐが、後に高木家を
名乗り現代に及んでいる。

多摩地域も西の外れ秋川丘陵自然公園に近い自然原野の中の八王子上川霊園の一角に唐鎌松之助は眠る｡
敷地面積は約２３０､０００㎡､敷地総区画は17､000と広大な霊園であり､緩やかな傾斜地が段毎に､綺麗に置き並べられた
壮大な姿に圧倒される｡

少年時代の松之助が背負った襲撃事件は幕府の崩壊と共に新政府の登場で新しい時代を迎える過程での、混乱
の最中にあり、個人的には襲撃事件の顛末をこれ以上追い詰めることもなかった。松之助は兄の範之介同様、北辰
一刀流の千葉道場の門弟であった。
兄と同様優れた剣客として、八王子を中心に北辰一刀流を教え、生涯を剣の道で飾った。
明治維新以降も多摩地域では新選組を生み出した風土はマグマのように残り､多摩地域を中心とした自由民権運動に
繋がった｡吉野泰三や石坂昌孝ら中心とした民権運動の離反･融合の繰り返しの中で双方で抗争が生まれた｡
松之助も八王子の剣士として抗争の中､壮士の一人であったことも伝えられる｡
小峰家から離れ、唐鎌家に養子に行き、昭和6年、78歳で没する。

兄、範之介は尊皇攘夷の志士として、凄惨な死を遂げた。
その遺恨は範之介の死後約4年経過しても尚、弟松之助の中では密かに認め熟成され、その機会を待っていた。
偶然だったのか、目の前を通過する近藤勇を兄範之介の仇と矛先を向けてしまった。
範之介の殺害に直接手を下したのは新徴組であったが、何故近藤に刃を向けたか、不明である。幕府なら、何処
もと、少年の心を揺れ動かし衝動的に走ってしまったのではなかろうか。
小峰家次男として、兄同様、剣の道に歩んでいたが、未だ少年であった、松之助には相手が悪かった。
そんな事とは知らず、突然の災禍に近藤勇も驚いたのは当然の事である。
以上迄が近藤勇襲撃に関わる、小峰家両兄弟の軌跡である。

範之介は19歳で戸吹村、父と同じ天然理心流の松崎和多五郎に入門する。
範之介は生まれつき剣の素質にすぐれ、僅か2年11カ月で、切紙、目録、中極位目録迄取得してしまう。範之介は
神田お玉ヶ池のほとりにある北辰一刀流の玄武館に入門した。何故、北辰一刀流へ、剣術を乗り換えたか不明だが
剣の才覚は発揮し、塾頭になる。

玄武館にはペリー来航や桜田門の変など激動の世の中、情報が飛び交った。取り分け千葉周作が水戸藩に招かれ
て出仕したことから、千葉の門下生に多くの志士たちが集まった。範之介は攘夷に心動かし、西洋人のために日本が
植民地化されることを恐れ、天狗党を支援し、更に横浜の夷人を襲う計画するなど、攘夷運動に走った。

真田範之介の実家に当たる、旧小峰家は
多くの樹木と手入れの行き届いた大きな庭
がある。
その一角に真田範之介を称える、出生の地
碑が建てられいた。

夷人襲撃など、幕府側に察知され、追われる身になる。
元治元年(1864)10月江戸に潜入、深川に匿われたが、程なく市中警護の新徴組に包囲され、21箇所の傷を受け凄惨
な姿で絶命したと言われている。範之介は31歳であった。屍体は国事犯として千住小塚原の回向院下屋敷に棄葬された。