文化13年(1816)生まれの斉藤秀全は始め、武士として江戸城御天守番百表扶持で駿河台四谷本所寺にあって三術
指南をし、後に僧侶となり秀全を名乗るようになった。明治元年の2月甲州郡内強瀬(こわせ)村全福寺にいた時、会津
の臣二人にの勧誘を受け、即座に一諾を与え自ら一諾斎を名乗ったと言う。
その時既に55歳の一諾斎は新選組に入った一番年寄りの異色の隊士であった。
丁度甲州鎮撫隊が甲州路を勝沼に向かう頃であり、土地勘を背景に道案内役に大いに活躍したのではなかろうか。
一諾斎はその後、仙台で官軍にくだり、駿河藩(清水)預かり、謹慎の身であった。赦免後、彦五郎の世話で八王子中
野村で寺子屋を作り、自ら教え、教育者として尽力した。
斉藤一諾斎が新選組と出会い、隊士となっていた由緒ある寺である。住職であったものの、武士の心得を持つ斉藤秀
全が心待ちしたかのように此処で、「よっしゃ～一諾」と新選組の仲間入りする運命的な出会いの場所であった。

慶応3年(1867)徳川慶喜が大政奉還した翌年江戸を退去する。それに変わる新政府軍が東征を準備していた。
戊辰戦争で金で雇われる連中など軍制改革で生まれた幕府歩兵隊は敗戦で殺気立ち、400人が脱走して甲州道を
西に向かい、道中筋で乱暴を働いた。
大月の井上八郎を鎮撫使として急遽派遣し説得したが、百余名は説得に応じなかった為に追討し、山中湖周辺で合
戦となる。結局首謀者10余名を捕縛し、3名を除き、処刑されその耳を削ぎ、善福寺に持ち帰った。斉藤秀全は心を痛
め耳塚を建立して弔った。昭和63年現在の観音像が建立されている。甲陽鎮撫隊が西下する時期の揺らぐ幕府の体
制の中で起きた悲劇であった。