江戸から西下し小仏峠を越え初めて 桂川に接する場所となる。甲州古道を往復し賑わいを見せる旅人の中でも、富士山を
目指す富士講信者がこの桂川での水でみそぎをしたと言われる神聖な場所でもある。この桂川に葛野川が合流する場所に
日本三代寄橋の一つと言われる「猿橋」があり、更に甲州古道で今残す希少な本陣姿を確かめられるのも、この地点である。
幕末期に江戸を目指す東征軍を甲府で迎えうつために急遽編成した近藤勇以下の甲陽鎮撫隊が此処を往復する際に数々
のエピソードを残している。そんなものを辿りながら、追って見たい。

官軍を迎えうつため甲府を目指した甲陽鎮撫隊はこの橋を渡ったが勝沼で破れ、江戸に戻り再びこの橋を渡る。甲陽鎮撫隊
に帯同した彦五郎以下、春日隊も官軍に追われ甲州路を東下し、日野宿に帰るため再びこの猿橋を渡ることになる。
帰る過程で追っての退路を絶つために、この橋に薪を積み油をかけて燃やそうと衆議たちまち実行しようとするところ
「この橋を焼落させることはどうあっても、この春日盛(彦五郎)が不承知だ」と天下の一奇勝を救った。・・・聞き書き新選組
遥か深い峡谷の底には、桂川流れ江戸に繋がる甲州道はこの猿橋を渡らねばならない。退路を絶つまでに及んだのも、勝
沼戦争で破れ、圧倒的な数の官軍から、追い詰められ、最早組織的抵抗力を失った幕府側の 恐怖の逃避行であったので
あろう。

日本三奇矯の一つ。橋脚を使わずに、両岸から張り出したはね木によって支えられている。 川岸の梢から猿たちが
群れをなして川を渡る姿をヒントに橋脚を用いず棟木と橋桁を何枚も重ねて中央で結合する構造で橋をかけたと言う
伝承が語り継がれている。
橋と周囲の景観の美しさから、人々の往来が頻繁となり、この絶景に感動し、今日に名勝として指定され親しまれている。
歌川広重の浮世絵にも描かれている。
此処猿橋は甲州路の往来上の拠点であるとともに大永4年(1524)武田信虎と上杉憲房との合戦の場となった戦略上の
拠点でもある。江戸時代は五街道の制度が確立してから甲州道中の要衛として御普請所工事(直轄工事)として度々修
理が行われた。昭和9年新猿橋の完成により、官道としての役割は終わり、名勝としてその姿を今日に残している。
現在の橋は昭和59年かけ替えられたが 、その姿は嘉永4年(1851)のものを復元しており、江戸の姿を今日に伝える
貴重なものである。

◇橋の焼落から救った

◇日本三奇矯の一つ