勇の首は塩漬けにさえた上、岡田藩の北島秀朝によって京へ送られ、改めて三条河原に晒される羽目になった。
数年来新選組局長として京洛の人々の畏敬を集めて来た勇だけに、良きにつけ悪しき大きな衝撃を人々に与えず
おかず、連日黒山の人だかりであった。
「中外新聞」・・・新聞のハシリと言うべき冊子本から
閏4月8日元新選組の隊長近藤勇昌宣という首級、関東より、来りて三条河原に晒されたり。其身既に誅戮(ちゅうりく)
を蒙りたく身なれば行いの是非を論ぜず。其勇に至りては、惜しむ可き壮士なりと言わざるはなし。
「同誌外編」より
近藤勇は其性剛邁(ごうまい)にして、殊に文武の道に長じ、曾(かつ)て有志の諸士を募りて新選組と号し、自ら其隊長
となり、勤王佐幕の志を以て四方に奔走し、天下の為に力を尽くせしが、此度不計王師に抗するの罪によりて、下総流
山辺にて官軍の為に捕らはれ、4月25日板橋に於て死刑に処せられたり。
実に惜しむべし。・・・・とすこぶる好意的な記事となって、当時の記者の目にとまっていた。

三条河原には
近藤勇事大和
此者儀、凶悪之罪有之処、甲州勝沼、武州流山
において官軍へ敵対候条
大逆に付、可令梟首者也
閏四月
と言う非情な高札が建てられていた。
奇妙なことにこの晒首はその後いくばくもなく三尺
高い台上から消え失せてしまう。

長州の桂小五郎(木戸考充)馴染みの祇園芸者が
盗ませて土佐の某寺に葬らせたとか、愛知県岡崎市
本宿町の法蔵寺に埋められたと話は伝わっている
ものの、その行くえは判らなくなってしまう。
その他近藤や新選組に好意を持つ者も決して少なく
なかったから、彼の首を盗み去ったのは同情を禁じ得
ぬこうした人々の誰かだったと考えられる。